以前、「あなたが人生の中で最大に悩んだ時、一番役に立った本を1冊紹介してください」(くれたけ#156)という
会社からのお題について書きましたが、
もう一冊タイトルは忘れましたが、救われた本があります。
それは対象喪失についての本でした。
家族を失った私は長い事喪の作業(仕事)をしました。
大切な人を喪った時に立ち直っていくためのステップを踏んで現状まで回復しました。
通常、健康的な喪失経験者はおおよそ1年程で回復するのですが数年に及びました。
それだけ家族の存在が私にとって大きかったという事です。
上記の記事には専門書は傷に塩を塗るような気持だったと書いていますが
それでも世界の色を失った私は自分が回復していくであろう過程を知るのは希望でもありました。
全く知らない土地を闇雲に歩くよりも
今どこら辺にいて、自分はこの先どう言った道をたどる可能性があるのかを知るだけで
その時抱いていた気持ちが異常な物ではなく正常な心理状態にあることを知って安心しました。
それがアルフォンス・デーゲン氏が提唱した「12の悲嘆プロセス」です。
これは対象喪失(失恋や家族、友人、ペット等との別れ)をした際の反応と回復をしていく過程です。
詳細については検索して頂ければ分かりやすいサイトがあるので割愛いたしますが、
数年間同じステップで止まっていました。
回復も悪化もすることなく停滞していることを知りました。
そして、現在は命日反応をしつつも12段階目を踏み終わり安定してます。
今でも対象喪失についての本を読んで当時を振り返り、より深く自分で受け入れていく作業をしています。
最近読んでいた本(『母ロス 悲しみからどう立ち直るか』榎本博明)で沁みた一小節があるので紹介させてください。
「このような死別の後の烈しい悲哀は、いつもまもなく終わりますがその後、
故人に代わるもののない心慰まぬ日々が長く続くものです。ほかのもので代用しようとしても、やはり個人とはどこか違います。
ほんとうはそれでよいのです。それでこそ、故人への愛を持ち続けることができるのです」
(ビンスワンガー著 『フロイトへの道』より フロイトからの手紙から引用)
20歳で去った息子を悼むビンスワンガーへフロイトが宛てた手紙の一文です。
正しくそうだと何度もこの文を刻みました。
忘れることはできないのです。
大切であればあったほど、心や記憶の奥深くと絡み合って事あるごとに思い出します。
それが、デーゲン氏の提唱した12のプロセスを辿っている途中であるなら辛い事この上ないと思います。
暗中模索をしていた頃、似た経験をした友人に
「どうしたら乗り越えられると思う?」と尋ねたことがあります。
友人は「乗り越える物ではないと思う、ただ思い出を辿って生きていくだけだと思う」と
乾いた声で答えてくれました。
友人のいうように思い出をひたすら辿りました。辿った先に今がありました。
当時は将来を悲観しました。
これからだったのに、何の意味もないと投げ槍になりました。
投げた槍のしっぽに糸が付いていて、辿っていったら今に着きました。
糸の正体は家族との間に培った愛情や絆だったのではないかと後から気づきました。
心にぽっかり空いた穴を埋めようとしましたが、埋める必要ないのです。
空いた穴の大きさはその人が生きていた証でもあるのですから。
以前にも書いたことがありますが、人は2度亡くなると言います。
1回目は身体の機能が停止した時
2回目は誰からも思い出されなくなった時
だから、折々思い出して2回目を迎えさせないようにするのだと思います。
それがフロイトの言う「故人への愛を持ち続ける」という事なのだと思います。
もうすぐ地域によってはお盆シーズンです。
悲しい出来事も至る所で起きています。
もしも今、喪失体験をして悲しんでいる方がこの記事を読んでいて
方向を失っていたら12の悲嘆プロセスのどこに立っているのかを知ってもいいかも知れません。
特別な感情をありきたりな何かに当てはめるのは気が引けるかもしれませんが
当てはめることで気持ちが楽になることだってあります。
悲しみは交わした感情だけ深くなると思います。
悲しみからの回復に無理は禁物です。感情を無視すると心と体が悲鳴を上げます。
ゆっくり思い出を辿って、自分の気持ちに素直に寄り添ってください。
できれば、誰でもいいので気持ちを話してみてください。
そろそろ…と感じた時に悲しみの淵から顔を上げるきっかけになれば幸いです。
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